NMNとNR:この2つのNAD+前駆体の違い

NMNとNR

NMNとNRは、どちらも補酵素NAD+の前駆体として知られています。どちらもNAD+ブースターとして用いられています。

ニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)とニコチンアミド・リボシド(NR)は、代謝にとって不可欠な分子であるニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)の生合成前駆体です。多くの研究で、NAD+のレベルは加齢に伴い著しく減少することが示されており、加齢した動物でNAD+レベルを回復させると寿命が延び、健康が促進されることが分かっています。これら2つの分子に関する研究では、どちらも加齢時にNAD+レベルを増加させることが示されています。それでは、この2つのNAD+前駆体分子の違いは何でしょうか?


ニコチンアミド・リボシド(NR)はNAD+の前駆体

NMNとNRの違いは、その分子構造および細胞がこれらの分子をNAD+に変換する仕組みに関係しています。


NMNとNRの違い

NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)とNR(ニコチンアミド・リボシド)の分子構造は概ね同じですが、NMNにはリン酸基が追加されています。このリン酸基があるため、NMNはNRよりも大きな分子となっています。一部の科学者は、NMNは細胞膜を通過するには大きすぎると考えており、細胞内に入る前にNRに変換される必要があると主張しています。そうでなければ、NMNはSlc12a8のようなNMN専用トランスポーターによって細胞内に輸送される必要があります。


NMNとNRが細胞内でどのようにNAD+になるか

NRは細胞内で「NRK(ニコチンアミド・リボシドキナーゼ)」と呼ばれる酵素によってNMNに変換されます。一度NMNが合成されると、「ニコチンアミドコア再利用経路」に入ります。この経路では、NMNATという酵素がNMNをNAD+に変換します。サーチュインというタンパク質はNAD+を利用して細胞の健康を維持し、NAD+をニコチンアミド(NAM)に変換します。その後、NAMはNAMPTという酵素によって再びNMNに変換されます。


食事とNAD+の関係

標準的な食事には、ニコチンアミド(NAM)、ナイアシン(ニコチン酸、NA)、およびニコチンアミド・リボシド(NR)といったB3ビタミンが含まれています。NAD+は、食事からのB3ビタミンまたはトリプトファンから合成されます。ヒトは、B3ビタミンまたはトリプトファンを含む食事またはNMNサプリメントなしではNAD+を合成することができません。


NRがNAD+レベルを高めることの証拠

2007年の研究では、NRが酵母においてNAD+レベルを大幅に増加させることが示されました。その後の研究では、NRが哺乳類細胞のNAD+レベルを最大270%増加させることが報告されています。これらの研究は、NRとNMNを含む「サルベージ経路」がNAD+生合成において特別な役割を果たしていることを示唆していますが、このメカニズムの詳細はまだ完全には解明されていません。


NMNとNRのどちらが優れているのか?

NMNとNRのどちらがより安全で有効かについては、科学者の間で議論が続いています。NMNはサイズが大きいため、細胞膜を通過するにはNRに変換される必要があると考える研究者もいます。このシナリオが完全に正しいとすれば、NRの方が効率的な前駆体であると言えるでしょう。


NMNとNRの細胞内取り込み

ワシントン大学医学部の研究者は、マウスの腸にSlc12a8と呼ばれるNMN専用トランスポーターが存在することを示す説得力のある証拠を発表しました。ヒトのゲノムデータによると、このトランスポーターをコードする遺伝子はヒトにも存在しており、「小腸、胃、精巣、甲状腺、大腸」で高い発現が確認されています。したがって、ヒトの腸内でも同様の役割を果たしている可能性がありますが、これを確認するためにはさらなる研究が必要です。


安全性

NMNとNRはどちらも、これまでの研究で安全性が確認されています。

NMNの研究例:
日本での研究では、健康な男性に対して最大500mgの単回経口投与が安全であることが確認されました。

NRの研究例:
別の研究では、健康な過体重の成人に1000mgまでのNRを長期間投与しても安全性に問題がないことが確認されています。


バイオアベイラビリティ

NMNの研究(マウス):
経口投与(300mg/kg)で血漿中のNMN濃度が10分後にピークに達し、その後30分以内にNAD+レベルが大幅に増加。

NRの研究(ヒト):
NRの単回経口投与(100、300、1000mg)でNAD+レベルが用量依存的に上昇(100mgで約22%、300mgで51%、1000mgで142%増加)。


保存と安定性

NRは室温で6時間、冷蔵(2~8℃)で7日間安定です。ハーバード大学のデビッド・シンクレア博士は、「NRやNMNは冷所保存が必須で、常温に放置するとニコチンアミドに変質してしまう」と述べています。


結論

NMNとNRはどちらも、加齢によるNAD+の減少を補うための安全かつ有効な方法です。今後の研究で、どちらがより効率的で効果的かがさらに解明されることが期待されます。

参考サイト:nmnドットcom